社会を見ながら、自分らしく福島で学ぶ
行政政策学類長 鈴木 典夫
2020年度入学の皆さん。福島大学行政政策学類は、皆さんを心から歓迎いたします。これまでの努力と誠実さが実を結び、皆さんはこの学類に集い、いよいよこれからは、大学生として人生の1ページが始まります。
ただ、その歩みを始める前に、皆さんがたどってきた道のりを少しだけ振り返ってみましょう。つらいこともあったかもしれませんが、楽しかったこと、嬉しかったこと、感謝したいこと、どんなに些細なことでも心に刻まれているその記憶を、自分の中に探してみてください。そして、そんな思い出がどれだけの人と関わっていたのかを考えてみてください。喜びを共有した家族、笑い合い、励ましあった友人、顔も知らないけれど支えてくれた人々、あなたがたった一人で生きてきたのではなく、そうした無数の人たちとの関わりの中で生活を営んできたのだということに、あらためて気づくのではないでしょうか。
そして、あなたのこれまでの道のりがそうであったように、人と人との交わりはさらにその外部へとつながって拡張しながら、幾重もの層を作っていきます。あなたが属する集団、地域、国家は互いに交錯し、「社会」という、人と人との関係のネットワークを紡ぎあげ、モノを作り出し、交換していくシステムなのです。だから、「社会」は、私たちの外にあって、客観的に外部者の視点で観察できるものではありません。皆さんがこれまで築いてきた人間関係を省みること、それは「社会」に気づくことの最初の一歩にほかなりません。
大学とは学びの場であるということは言うまでもありません。今まで皆さんの学びとはどのようなスタイルだったでしょうか。学校の先生がいて、教科書や参考書があり、そこに単語や文章、記号や定理が記述され、問題集などでその成果を高めてきたのではないでしょうか。もちろん、その「学び」で得たものは今後も皆さんの教養・知識となるものですから、有意なものです。しかし、これまではいわゆる「教えてもらう」中での「学び」を、結果で示すものであったと思うのですが、これからの学修は皆さん自身が「創り上げる」中で「学び」を見出し、さらにその学びを自分自身の生きざまや社会に関連させる「考察」だと思います。そのプロセスには、多様な選択があるでしょうし、追究してもなかなか近づかない課題もあるでしょうし、他人と比較しても仕方がないものもあるかもしれません。正解のあるもの、正解のないもの、しかし自らたどり着こうとする考えに至る学びの経験や学びの多様性が大切だと思っています。
さて、行政政策学類では2019年度から「地域政策と法コース」「地域社会と文化コース」の2コース制での学びに変わりました。しかし、教育組織は変わっても、地域とともに歩むスタイル、学際的に学ぶ特色は不変です。そんな皆さんを励まし、道案内をするのがこの『学修案内』です。目次を見ればおわかりのように、授業を履修するための手続き、学年に応じて履修できる講義科目、学生生活を送る上で知っておかなければならない様々な規則、卒業に必要とされる単位数、レポートや卒業研究の作成ルールなど、学びを支えるために必要な情報が詰め込まれています。毎年受け継がれてきたもの、2019年度のカリキュラム改革によって新たに加えられたもの、これらは、行政政策学類が提供する学修サポートの叡智の貯蔵庫です。それでも、今後内容の変更があったり、提供すべき情報があったりすることもありますので、教務の情報には注意をしてください。いずれにせよ、この冊子または、Web上の『学修案内』やライブキャンパスなどを活用し、適切な学修の参考としてください。
ただし、この『学修案内』は、単位(数字)の積み重ねの方法を示すマニュアル本ではありません。最終的には、卒業に至るまでの文字通り学びのガイドブックです。大学を巣立つとき、堂々と福島大学で学んできたことが言える、この課題に関しては深く専門性を追求することができたという足跡を残すことができればいいと思います。そのために、逆に入り口は広くして臨むということもあり得ると思います。広い視野を持って教養を身につけ、経験を得て、多彩な授業科目を関連付けし、年次を経るとともに自分の本当にやりたい専門性を見つけ出してください。今福島は、震災復興、地方創生、都市の再生、農村振興、地域の活性化、市民生活と行政のあり方、暮らしと法政策、環境問題、少子高齢社会、文化の伝承、子どもの生活、地域教育、国際関係、文化の多様性、etc・・・、とにかく、現代社会や地域の課題に考えをめぐらすテーマや学びのフィールドがあふれている地でもあります。自ら課題を発見し、課題にふれ、そして創造・発信していく、そんな大学生活に挑んでください。
先に「社会」というネットワークにふれ、「社会」は客観的に外部者の視点で観察できるものではないと述べました。今、福島大学は「アクティブ・ラーニング」という学びのスタイルを唱えています。これは、一方的に知識を注入されるのではなく、学生の皆さんが能動的に学修の場に参加し、参加する仲間と共に考え「思考力・判断力」を身につけ、何かを創造する学びです。「社会」の内側に自ら切り込み、内側から外に発信していくことで、皆さんも「社会」のネットワークの一員であることを実感できるかもしれません。ヒアリング活動をしたり、地域の活動に参加したり、インターンシップに参加したり、「社会」のフィールドに出かけていくことを想像するかもしれませんが、「アクティブ・ラーニング」とは、単に野外に出て活動する行動態様を指しているのではありません。調査結果の分析、政策提言の作成、アイデアを出し合うワークショップ、討論会、仮定分析など、互いの情報や外で得られた情報を「出し合い・話し合い」協働して課題解決に導くことが肝心となります。そして、そこには「話す・発表する」ということが大切です。私は、とりわけ「発表する」という学生の成長に興味があります。発表するということは、誰かに伝わらなければ、学びの意義は失われてしまうと思っています。いかに「伝える」か、それは「学び」のサービス力を高めることになり、将来の社会に役立つと思うからです。
生涯の学びを考えると、大学時代もその過程の一つです。知識を身につけ、能動的な学びを心掛け、様々な経験を積みあげる。大学時代に短期・長期を問わず留学を経験することもそのメニューの一つでしょう。大学で出会った仲間や地域の人々と互いに利する関係を築き、社会人へと、あるいは更に課題を探究するための「大学院」進学へと、可能性を広く持ちながらも、たどる先には学ぶべき自分の学修の確立を目指してください。ここで出会う人々とは、偶然の出会いではなく必然の出会いであるとも思います。集団の中に有りつつも、自分らしさを発揮し、学修テーマの中にいる人々とともに進みましょう。